~“オンライン大学” 東京通信大学 の取り組み~

オンライン学習が加速する昨今、学びの促進のために、私たちはどのように学習を設計し、どのように学習者を支援していくべきなのでしょうか?
『オンライン授業で学びのモチベーションを維持するための具体的な取り組み事例』について、東京通信大学 情報マネジメント学部 情報マネジメント学科 加藤 泰久教授にお話を伺いました。

Profile

加藤 泰久(かとう やすひさ)教授

東京通信大学 情報マネジメント学部 教授

1964年生まれ。京都大学大学院工学研究科修士課程修了、スタンフォード大学大学院教育学研究科修士課程修了、熊本大学大学院教授システム学専攻博士後期課程修了。博士(学術)。1990年日本電信電話株式会社情報通信研究所入社。音声処理・教育・検索システム等の研究開発に従事。NTTラーニングシステムズにおいてスマホ・タブレットを対象とした教育サービスManavino(マナビノ)のシステム開発・運用を担当した後、UX/サービスデザインの研究開発、産学連携の推進業務を担当。2018年4月より東京通信大学開学に伴い、情報マネジメント学部教授(現在に至る)。
現在の研究分野は、ICTによる学習支援・学生支援(eラーニング、eポートフォリオ、学習意欲)・情報環境デザイン・学習環境デザイン・介護業務支援

さまざまな学習者支援~学びを止めないために

学生一人ひとりに専任アカデミック・アドバイザーをアサイン! eメンタリングで学生の学びを支援

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荒木
4学期制や、1学期と3学期、2学期と4学期での同科目開講、1回の授業の配信期間の工夫など、授業設計の面で、学びをドロップアウトしていかないような工夫をされていらっしゃるんですね。一方で、どうしてもオンデマンド型のオンライン学習については「どのように学習者を支援していくか」もテーマになってくると思うのですが、こちらについては今、どのようにされてらっしゃるんでしょうか?
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加藤先生
まず、学習者の支援ということで、入学してすぐに“アカデミック・アドバイザー(通称:AA)”と呼ばれる専任教員が1人ずつ学生にアサインされます……

担任に近いですが、担任というとかなり幅が広いので、あくまでアカデミックなアドバイスをする、という制度です。基本的には、何を履修すればよいか、どういうふうに学べばよいかなど、学習を進める上で困ったことを相談する先生という感じです。もちろん、科目で分からないところはその科目担当の先生に聞けばよいのですが、履修登録の時に何の科目をどう取っていけばいいのかなどは分からない人も結構いますので、そういう人に対して「アカデミック・アドバイザーに聞いてください」という形で、先生が窓口になって学生の対応をする仕組みを作っています。

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荒木
それはつまり、同級生どうしでも、自分とほかの学生ではアカデミック・アドバイザーが違うということですよね?
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加藤先生
そうです。専任教員が今、情報マネジメント学部で22名、全体で47名いるんですけど、全学生が全ての専任教員に割り当てられています……

アカデミック・アドバイザーの先生を中心にして、1年生と2年生と3年生と4年生の学生がいる。実際はまだ4年生がいないので、それぞれのアカデミック・アドバイザーに対して今、1年生、2年生、3年生がいるという状態です。
理想を言うと……例えば、私は担当している学生に対して初年度にはいろいろと分からないところを指導します。その学生が2年目になります。そうすると、新しく入ってきた新入生をうまく指導できる……スチューデントアシスタントというのが通常の大学にもありますけど、そういう形でうまく生かせないかというのを理想としていますが、まだまだそこまではとても至っていません。
つまりオンラインでどうやってアカデミック・アドバイザーを中心とした学生グループのコミュニティーを構築するかということが課題です。

“参加しない自由”もあるのがオンラインコミュニティ

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加藤先生
私も今、3年目で約70名の学生を担当しています。何人かは直接対面で話をしたことがあります。ZoomやSkype、ビデオチャットなども使っていますが、まだテキスト上でしか会話したことがない人がほとんどです……

なので、オンラインコミュニティーをつくって、その中で相互に教え合い・学びあう仕組みをつくりたいなと思っています。今はどちらかというと、先生と学生の関係が1対多みたいな形になっているのが実情です。
学内のSNSでYammerというのがあるのですが、一度そのYammerで私が指導している学生の部屋をつくってみたんです。「皆さん参加しませんか」と声掛けしたんですけれど、参加したいという人は3分の1ぐらいだったと思います。そのあたりも多様性の一部なのです。

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荒木
参加しない自由もあるんですね。
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加藤先生
そうなんです。オンラインコミュニティーでいろいろとやりたいっていう人もいるし、絶対やりたくないっていう人もいるし、どちらでもいいよっていう人、いろんな人がいます。
その辺をどこまで、どうやってやっていくのかをいろいろ試行錯誤しながら試しているところです。

試行錯誤の“eメンタリング”

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加藤先生
入学した時点で、各学生は自分のアカデミック・アドバイザーが分かっている状態です。授業が始まった後は基本的には各授業担当の先生がその科目については対応しますが、アカデミック・アドバイザーは全体を通した科目横断でのアドバイスを行います……

その学生の全体の進捗状況をみながら、「この時点でちょっと遅れてるんじゃないの?もう少し頑張りましょう」などというメッセージを進捗が遅れている学生に送るようにしています。これを“eメンタリング”と呼んでいます。
2年前の開学時の最初は、全学生に同じようにメッセージを送ったのですが、そうすると中には「私は分かっています。社会人なので。」という人や、大学を卒業した学び直しの学生もいるので「大学を卒業しているので履修登録はどういうものだとか、大学の単位がどういうものかはよく分かっていますから、あまり必要ないです。」という人もいます。
計画的に進められる人は放っておいても全く問題がない学生なので、そうではなくて、ちょっと遅れていたり、全然進んでいなかったりする学生を中心にして特に声を掛けるということ、つまり学生の進捗度を適宜見た上でのeメンタリングを、開学1年目の途中から始めました。学生の状況に合わせながら、どのタイミングでどういうメンタリングが一番ふさわしいかを試行錯誤でやっているところです。

「自律志向型」「他律・コミュニケーション志向型」「矛楯型」「サイレンス型」4つのタイプの学生たちをどう支援するか

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荒木
中には構ってほしい学生さんもいれば、「もう放っておいてください、私は自分でできますから」というタイプの学生さんもいると思うのですが、その比率は、加藤先生の感覚的にはどのぐらいでしょうか?
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加藤先生
どうでしょうかね。半々かな。でも半分よりも、構ってほしい人のほうが若干多いぐらいの感じですかね。学生の応答の仕方によってどういう分類がいいのか、今、いくつか学生の類型を分析中です……

一つは“自律志向型”です。「自律しているので、そっとしておいてください。自分で淡々と、粛々とやります。」という自律志向の学生。
次に、他律志向というか、誰かとコミュニケーションを取りながらやりたいという“他律・コミュニケーション志向型”の学生。
あと、私がこの大学に入り学生支援をして発見したのは、“矛楯型”というのがあって。そっとしておいてほしいと思って自分ではそう言うんですけど、実際は少し働き掛けるほうが、モチベーションが上がるという学生もいます。

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荒木
矛楯型ですか、トリッキーですね。
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加藤先生
そうなんです。矛楯型というか、隠れコミュニケーション型かもしれません。実際、内面の深くでは多分構ってほしいと思っていて、けれど「私は社会人なので、もう自律した人間だからそれは必要ないです。」と言ってしまうのです……

そういう学生には、内面に少し向き合ってもらいながら、本当はちょっと声掛けが有効な“自律型を志向している他律型”の学生っていう感じですかね。
最後は、何を投げ掛けても全くリアクションがない“サイレンス型”の学生です。この学生の対応が一番難しいです。このタイプであっても、実際に自律的に授業を進められている人は自律志向型でいいと思いますが、授業も進んでいなくてこちらからの反応にも応答がないという学生は、いろいろな方法でサポートしています。教員だけではサポートしきれないので、職員から電子メール、電話、手紙など様々な手段でコミュニケーションをとっています。それでもなかなか返事がない学生もいますが、「はい、分かりました」となる学生もいるので、いろんなチャンネルを使ってメンタリングをやっているのが実情です。

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