~“オンライン大学” 東京通信大学 の取り組み~
オンライン学習が加速する昨今、学びの促進のために、私たちはどのように学習を設計し、どのように学習者を支援していくべきなのでしょうか?
『オンライン授業で学びのモチベーションを維持するための具体的な取り組み事例』について、東京通信大学 情報マネジメント学部 情報マネジメント学科 加藤 泰久教授にお話を伺いました。
Profile

加藤 泰久(かとう やすひさ)教授
東京通信大学 情報マネジメント学部 教授
1964年生まれ。京都大学大学院工学研究科修士課程修了、スタンフォード大学大学院教育学研究科修士課程修了、熊本大学大学院教授システム学専攻博士後期課程修了。博士(学術)。1990年日本電信電話株式会社情報通信研究所入社。音声処理・教育・検索システム等の研究開発に従事。NTTラーニングシステムズにおいてスマホ・タブレットを対象とした教育サービスManavino(マナビノ)のシステム開発・運用を担当した後、UX/サービスデザインの研究開発、産学連携の推進業務を担当。2018年4月より東京通信大学開学に伴い、情報マネジメント学部教授(現在に至る)。
現在の研究分野は、ICTによる学習支援・学生支援(eラーニング、eポートフォリオ、学習意欲)・情報環境デザイン・学習環境デザイン・介護業務支援
ドロップアウトを防ぐには、最初の4週間(前半)でいかに乗り遅れさせないかが勝負! “学びのハイパフォーマー”の傾向とは…




全くのサイレントで、何も見ずにドロップアウトする人もごく一部いますが、「まずは最初の15分のビデオを見ました」という人を100%にします。
その後、第1回の授業の残り45分(第2講、第3講、第4講)を見た人、つまり第1回目の授業を全部見た人が92%となります(グラフ横軸:”1”)。ここで8%ぐらいの人の学びが止まってしまいました。これは、全部の授業が終わってから調べているので、この後ずっと見ていないということです。
そして、授業の第2回目まで修了したのが85%。3回目までが少し減って82%。そして、4回目、半分まで全部終わりましたという人が76%です。つまり、最初から4回目までで24%の学生の学びが止まっています。
ところが、ここを過ぎると、75%前後の学生が最後の期末試験を受けるところまで到達します。4回目まで終わったら、5回、6回、7回、8回はそのままずっと進んでいける学生が多いです。
なので、やはり前半の時期に、いかに授業を受けるか、自分なりの授業の進め方をいかに身に付けるかが重要なのではないかと考えて、学期の前半を中心に声掛けなどのメンタリングを行っているのが今の状況です。
◆ ゴールデンウィークが学習を継続できるかの分かれ目!?

- 授業開始時
アカデミック・アドバイザーや各科目のティーチングアシスタントから全学生へメッセージ
Ex. 「これから 1学期/授業 が始まりますよ」「こんな授業ですよ」「さあ頑張りましょう」 - 2週間後(3週目開始時)
アカデミック・アドバイザーから授業をあまり進められていない学生へメッセージ
Ex. 「どうしました?」「2週間たちましたけど、あんまり進んでないみたいですね」「進め方やシステムの使い方など、分からないところはありませんか?」



ゴールデンウィークの前半には前週より受講率が落ちたのですが、アカデミック・アドバイザーの先生方に進捗が遅れている学生に声掛けをしてもらった結果、ゴールデンウィークの後半、受講率が伸びたのです。そのあたりの因果関係についてはこれから学生アンケートやインタビューなどで詳細を調査する必要がありますが、ゴールデンウィークの後半に、授業を進める人がかなり増えたということで、遅れた人に対して先生から何かしらのメンタリングを行うことは有効である可能性が昨年判明したので、今年も続けています。今年の結果はまだ出ていないので分かりませんが、昨年と比較したいと思っています。




このパターンを、“駆け込み&集中型”と呼んでいます。最後の2~3週間で一気に授業を受けて、最後の試験までは進むものの、そういう学生はかなり単位を落としている、という分析結果が出ています。これは、一概には言えませんが、最初から駆け込み&集中型の計画を立てていた学生はそれでいいのですが、結果的にどうしても遅れてしまって、「最後だけ頑張ろう」みたいになし崩し的に進めている学生は、単位を取るのが難しい場合が多いことも分かってきています。
◆ 定期的な学習ペースが成功パターン

最初(学期の前半)にたくさん進める学生というのは、結構な確率で合格率が高いです。一方、最後にまとめて進める学生は、合格率がちょっと低くなるという傾向があります。
そういうこともあって、いかにうまくペースをつかんでスケジューリングするか。通常の通学制と違いオンラインの大学では、履修する科目は決まっていても時間割がないので、タイムマネジメントは自分でやるしかないわけですよね。オンラインの大学には、タイムマネジメントができる人が向いているといえるかもしれません。


また、それとは若干異なりますが、いわゆる成績のいい学生、企業内研修的に言うとハイパフォーマーですかね。


やはりうまくいっている人は、ちゃんとスケジューリング、タイムマネジメントがうまくいっているということが少し分かってきました。これは全ての人にうまく当てはまるかどうか分からないのですが、まずは、うまくタイムマネジメントが自分で自律的にできるかどうか、そのスキルを身に付けてもらえば学習も進められるんじゃないのかなっていう話を学生にはしています。
◆ 大切なのは、自分に合った学び方を知り、セルフマネジメントしていくこと

自由とは言いつつ、結構制約もあるわけじゃないですか。受講が3週間遅れると遅刻になるとか、遅刻が2回あると1回分欠席になってしまうとか、そういういろんな制約を考えつつ自由度も大きい中で、どうやってうまくセルフマネジメントするかのスキルを身に付けた人は、2学期以降も上手にどんどん進めていけるのではないかと思います。
例えば、社会人なので、1学期は余裕があったけど2学期はちょっと仕事が忙しくてという方も結構いますよね。
学生と話をしていて「時間がありませんでした」という声をよく聞くんですけれど、それはそうでしょうって。社会人、そんなに暇ばっかりじゃないでしょう。「時間がありませでした」というのはできなかった理由ではなく、時間がなかったら計画自体を見直せばいいわけですよね。われわれの大学も、4年で全員卒業するとは思っていなくて、いろいろなパターンを社会人向けに考えているので、自分で自分の時間をどうマネジメントするかは考えてくださいということを学生には言っています。タイムマネジメントのスキルを含む、オンラインで学ぶスキルを東京通信大学にいる間に身に付けていって欲しいなと思います。社会でも必ず役に立つスキルだと思っています。
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